サマリー
この映画を観ていると背筋が寒くなる。ジェイク・ギレンホールが痩せこけ、目はくぼみ、バンパイヤとも悪魔とも思えるような風貌に変わっている。(彼はこの役をやるにあたって減量と昼夜逆転の生活をして役作りに励んだそうだ。)
彼はしがないコソ泥であったが、ふとしたことから「ハゲタカ」にように報道スクープの美味しいエサにありつく。そして次第に欲望がエスカレートしてゆく。自分の商売ガタキを蹴落とし、部下を踏み台にすることなど何とも思っちゃいない。
そこにはまるで良心と言えるものが無い、自分の欲望だけで行動し、常に「他人の不幸」と言う獲物を狙っている。
報道カメラマンとは危険な紛争地帯などに命を賭けて出むき、現場の生々しい真実の姿を世の中に知らしめる。しかし「ナイトクローラー」と呼ばれる報道パパラッチは「金」の為だけに過激で血なまぐさい映像を撮ってマスコミに売る。
同じ報道カメラマンであってもその差は天と地ほどもある。
彼は血だらけになった被害者の顔まで撮る、さらに死体をわざと動かしカメラアングルを整えることまでやってのける。そして惨劇の現場ではまだ生きている人間を放置、救急車も呼ばずにカメラを回し続ける。
強盗殺人犯を目撃しても、彼ら悪党を泳がせ銃撃戦になるであろうと思われる場所で警察に通報する。そして思惑通りに始まった警官と殺人犯の銃撃戦、それを遠くから盗み撮りする・・・・・当然警官にも死傷者が出る。
主人公は直接人殺しをしているわけではないが、間接的には殺人者である。
報道とは何なのかと言うよりも、人間の良心とはいったい何であろーかと考えさせる映画である。
でも誰もがこんな「ハゲタカ」ような一面を持っているのかも知れない。悲劇をテレビを通じてお茶の間で見る。しかも過激なほど視聴率が上がる・・・・・視聴者も同罪であり、僕自身もうしろめたさを感じた。
この映画は結構暗いテーマなので、好き嫌いがあると思う。でも問題作なので鑑賞しても損は無い、さてあなたはどう感じるか・・・・・。
2015年日本公開のサスペンス アメリカ映画、監督・脚本はダン・ギルロイ(初監督作品である)、主な俳優はジェイク・ジレンホール(ブロークバック・マウンテン、ゾディアック、ミッション:8ミニッツ、複製された男)、レネ・ルッソ(ダン・ギルロイと実生活で夫婦)(メジャーリーグ、マイティ・ソー、マイ・インターン)、リズ・アーメッド、ビル・パクストン(オール・ユー・ニード・イズ・キル)等である。
第87回アカデミー賞(脚本賞)にノミネートされている。
ビル・パクストン、リズ・アーメッド、レネ・ルッソ、ジェイク・ジレンホール
ストーリー
舞台はロサンゼルス、いつものように線路わきの金網や銅線など金属類を盗むコソ泥ルイス・ブルーム(ジェイク・ジレンホール)は偶然にも自動車事故現場に車で通りかかる。
そこに現れた報道パパラッチ達が現場写真を撮り始める。その光景を見ていたルーはカメラマンに尋ねる。彼はルーに「悲惨な事故は金になる」そして「テレビ局に売れる」と言い残して立ち去る。
ルーは競技用カスタム自転車を盗み売り払ったお金で、ビデオカメラと無線傍受機を買う。そしてその機械を使って警察無線を傍受し、事故現場に次から次へと向かう。
発砲事件の現場で血だらけの被害者の顔を近くでビデオを撮影する、事件はカージャックらしい。彼はビデオを持ってテレビ局に行く、運良くニュース番組のディレクターであるニーナ(レネ・ルッソ)に250ドルで売れた・・・・・ルーは初めてマスコミの世界に入り込む。
彼は自分が取った映像がテレビに流れるのを見て、思わずこれが自分の天職だと感じる。彼は警察無線のコードナンバーの意味を解読し、助手のリック(リズ・アーメッド)を雇い、本格的に「ナイトクローラー」の仕事を始める。
リックは高卒で、今はホームレス状態である。車の免許とGPS付きの携帯電話を持っていることで採用となった。給料は安く一晩30ドルだ。
ルーは警察無線から流れる情報のうち金になるものを選ぶ、特に視聴者が喜ぶのは、郊外の裕福な家庭で起きる白人が被害者の事件だ。
白人家庭への銃撃事件があった、彼は立ち入り禁止を無視し、家の中へ入り弾痕を撮影したり、家族の写真も無断で撮る。
この記事はニュース番組ディレクターのニーナに受けた、彼女はスタッフから住宅への不法侵入で訴えられるとの助言を無視し、テレビに流す。
ルーはニーナに信頼され、次から次にスクープをものにする。彼は儲けたお金で機材を高級なものに買い替え、車もスピードが出るものにした。
交通事故の現場ではあいにくカメラアングルが悪く、ルーは死体を引きづって位置を変え、見やすい画像にねつ造する。
ルーはニーナを食事に誘い初めは断られたが、それでも彼女はルーの申し出を受けてきてくれた。彼は彼女を口説こうとする。
ニュース番組ディレクターのニーナ(レネ・ルッソ)
報道パパラッチのジョー・ローダー(ビル・パクストン)から一緒に組まないかとルーに誘いがあったが、きっぱりと断った。ジョーは怒ってルーに罵声を浴びせる。
飛行機事故の現場をジョーに先を越されスクープを取られてしまう、さらにニーナにも怒られる。ルーは腹が立ってキレる。彼はこっそりとジョーの車の下にもぐり細工をする。
ルーと商売ガタキのジョー・ローダー(ビル・パクストン)
ジョーの車は電柱にぶつかり事故を起こしたようだ。ルーは素知らぬ顔で同業者の悲劇を映像に収める。
住居に強盗が侵入したとの情報を得る。警察よりも早く現場に到着する。現場では銃声がとどろき、強盗が二名外に飛び出してきた。ルーは強盗達の車と顔をこっそり撮影する・・・・・果たして彼はこの後どのような行動にでるか是非映画を観て頂きたい。
ネタバレ
彼は無断で家の中に入り、被害者たちのむごたらしい映像を撮影する。3人の被害者が撃たれていたが男はまだ息がありうめいていた。ルー達は撮影を終えるとすぐその場を立ち去った。
グラナダヒルズ強盗殺人事件のスクープ映像をニーナに見せる。裕福な白人が3人も殺されていた・・・ルーはニーナに1万5千ドルを吹っかける。
このスクープによってニーナとルーの関係は完全に逆転してしまった。彼女はもうルーの言うことを聞くしかなかった。
ルーのアパートに刑事が押し掛ける。1人は女性刑事フロンティエリ、もう一人はリーバーマン刑事であった。
強盗殺人事件の容疑者を見たのかと質問された、ルーは暗くて見えなかったと嘘をついた。(ルーは容疑者の顔も、車も撮影していた。)
ルーは強盗の容疑者達を特定し、警察に通報せず、彼らを泳がせる。そしてスクープ映像が取れそうな場所(レストラン)に彼らが入ったところで、警察に通報した。
ルーの話ではこのスクープは5万ドルの報酬になるらしい。助手のリックはこの大スクープの報酬の分け前を半分よこせと要求する。
さらにリックは犯罪者達を知っていながら罪を犯すのを待ち撮影するのは違法だとルーを脅す・・・・・ルーはオーケーするしかなかった。
レストランに入った強盗殺人容疑者のところに警官が駆け付ける。そしてルーの予想通りに銃撃戦が始まる。大変なスクープ映像だ・・・・・ルーはカメラを回し続ける。
リックは叫ぶ「警官に死傷者が出た」と・・・・一人は警官に射殺され、もう一人は車に乗って逃走する。ルー達はその車を追うパトカーの後ろから猛スピードで追跡する。
殺人犯の車とパトカーは接触して横転する・・・・そこに車を降りたルーが近づく。ルーはリックを呼び犯人は死んでるから正面から映像を撮れと指示する。
リックが殺人犯を撮ろうとしたところ、気づいた犯人に突然拳銃で撃たれ地面に倒れる。リックはルーに「お前は狂っている」と言い残して息を引き取ってゆく。
ルーはこの大スクープを持ってニーナのところにゆく・・・・・映像を見たニーナは声が震えるほど大絶賛してくれた。
刑事フロンティエリがテレビ局に現れ、今回の銃撃戦に関するすべての映像を証拠品として提出しろといってきた。この事件で警官3名が死亡、1名が危篤、4名が負傷していた。しかしニーナは局の資産だと言って断る。
そしてこの映像をテレビで放映してしまう。後でグラナダヒルズ強盗殺人事件は一般市民が巻き込まれた都市型犯罪ではなく、麻薬取引がらみの悪人たちの闘争であったことが判明する。
ルーはフロンティエリ刑事の事情聴取を受ける。彼は彼女に嘘をつき続けていたが、彼女は真実を知っていた、全てルーが仕組んだ事件である事を・・・・しかし何の証拠もない。
ルーは新しい車2台と若い助手3人を採用した。新人に訓示を垂れ、また夜の世界に消えてゆく・・・・・。
レビュー
ルーは学歴もコネも就職先もない、コソ泥をしながら毎日を食いつないでいる。ネットで知りたいことは全て知り、ネットの通信教育も受けているようだ・・・・・お金のかからない勉強法か。
でもそれらの知識を間違った方向に使っている。しかも彼は人間同士の繋がりの中で生きていないことから、人間というものを理解していない。リックからは「自分を人間あつかいしろ」と手厳しいことを言われるが、反省どころか彼を間接的に殺す・・・・もう狂人としか言いようがないね(弱者が弱者を切り捨てる)。
彼はハゲタカのように人の「不幸」に群がる「ナイトクローラー」を見て、そこに自分の存在価値を見出す。
そしてどんな手段(間接的に人殺しをしても)をとってもスクープ映像を撮影し金もうけに走る。そこには倫理的なものなど一切ない。低視聴率にあえいでいたテレビ局で働くニーナもルーの影響を受け変貌していく。
これらは大なり小なり現代社会にも当てはまる・・・・・・行き過ぎればルーのような狂人だが、狂人予備軍が世の中にはいっぱいいるかもしれないね。
この映画を観て「うしろめたさ」を感じる人は要注意だね(僕も含めて)。
僕も長い間サラリーマンをやってるけど、この映画の男ほどではないにしても、部下を踏み台にして手柄を横取りし、失敗は他人に押し付け、階段を駆け上がって行く人間を何人か見てきたね。
そんな他人を不幸にするような人生に何の意味があるのか・・・・・つくづくこの映画を観て感じるね。
映画の結末でもルーには天罰は下っていない・・・・・・こんな人間が世の中にいっぱい生きていることを示したかったのかな。
でも女性刑事の言葉が突き刺さる「真実は全て分っている」とつまり隠し事は出来ない・・・・・この言葉がこの映画のよりどころなのかな。
ルーが言ってた言葉「恐怖とは本物に見える偽の証拠」が何故か心に残るね・・・・・・。
辰々
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