アニメ

「レッドタートルある島の物語」感想・評価‐大コケ原因は製作者側の押し付け自己満足なのか

サマリー


2016年日本公開の日本・フランス・ベルギー合作のファンタジーアニメ映画
監督・脚本・原作 マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット(お坊さんと魚、岸辺のふたり、レッドタートルある島の物語)
製作 鈴木敏夫、ヴァンサン・マラヴァル他
音楽 ローラン・ペレス・デル・マール
スタジオジブリ作品(「思い出のマーニー」「かぐや姫の物語」「風立ちぬ」)

『レッドタートル ある島の物語』予告

マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットが米国アカデミー賞短編アニメーション部門を受賞した「岸辺のふたり」だね。このアニメを観れば何となく彼の作風が伝わってくる。

Father & daughter

「レッドタートル」は色々なものを全てこさぎ落としたシンプルなアニメだ。言葉でさえも省略している・・・説明も一切ない。映画の宣伝文句「どこから来たのか どこへ行くのか いのちは?」がヒントになるのか。

これだけいい作品なのにまったくもって人気が無い、この原因の一つに「子供が見ても寝てしまうだろうな」的な難解ストーリーだ。「孤高の作品」「芸術過ぎる作品」「観客との対話の少ない作品」「退屈な作品」・・・製作者側の自己満足に付き合えないと言う事だ。まあ、僕としては好きな作品なんだけどね。

舞台は青い海と小さな島だ。「どこなのか ここは」「いつなのか いまは」にあるように時間も場所も超越している。男が何故この島に流れ着いたか不明だが、この島から脱出しようと試みる。ところが島の引力に引き戻されてしまう。

男は沖で赤い大きなウミガメに出会う。このカメが島からの脱出を妨害していると思った男はウミガメを殺してしまう。人間はいつも残酷だ・・・カメを殺してしまってから、男は良心にさいなまれる。

そこから先は男の空想なのか夢の世界なのか?カメから女が生まれ、一緒に暮らし子供も出来、年老いて死んでゆく。人生とははかないもので、人間も自然の一部だ。自然から生まれいつかは自然に帰ってゆく。

昨今の派手な映画からすれば素朴過ぎる。作者は準備期間も含め9年間をこの作品に費やしている。ただ観客に媚びへつらっていないので、つまらなく感じるかもしれない。でもシンプルだからこそ何回も見られるし、色んな解釈が出来る。

音楽は非常に美しく、心に染み入ってくる。どんな世界でも一人では生きていけないし、二人だったらどこまででも生きてゆける。

静かで綺麗な海を気が済むまで泳いでいたい。人間は海から生まれたんだね・・・そんなことを感じさせる映画だ。しかし人間は海から生まれたのにウミガメのように海の中では暮らせない。

この大自然の世界は誰しもが望んでいる世界かも知れない。都会に毒された僕らにとっては夢の世界だ、何事にも束縛されたくない。でも島から出られないのは束縛されている証拠かな?

この島の世界は人間の心の世界を表しているのか?この映画は純粋すぎて興行的にはなかなか難しいかもしれないね。でも一部の賛同してくれる理解者が死ぬまで何回も見てくれれば成功ではないのかな。

僕としてはこの一つのシンプルな世界に9年間も時間をかける作者がうらやましいね。僕なんかとても長続きしない。もう一回見ようかな、見ながら夢の世界に入って行くのもたまにはいいね。

ストーリー

男が嵐で流され、近くにあったボートに必死でしがみつく。そして大波に激しくもまれある小島に打ち上げられる。海岸の砂地で気が付いた男は岩に上に登る。そこから下を見下ろすと岩場に一匹のオットセイがいた。

島の中には竹藪があり、そこで激しいスコールに合う。そこを通り越すと土手に突き当たりさらに登ってい行くと小高い丘になっている。丘から周りを見渡しても海ばかりだ。

男は丘の上から「おーい」と叫ぶ。でも何処からも返事が無い。自分一人が島に取り残されていることを知る。

島の中心部には真水の池があった。そしてそこから見える木には大きな実がなっていた。実を地面に落として食べてみると美味しい。空は青く鳥が飛び交う・・・のどかだ。

男は竹藪から倒れた竹を海岸に運びイカダを作る。夜になると孵化したばかりの子亀が海を目指してよちよち進んでゆく。月明かりの下子亀たちは海の中を自由に泳ぎ回る。

男は海の中を歩くと木で出来た長い桟橋に突き当たる。そして桟橋の上をゆらゆらとどこまでも浮遊してゆく。男は「はっ」として目覚める、夢だったのか。

男は昨晩の続きでイカダを組みタケの葉で帆を作る。木の実を乗せて沖に漕ぎ出す。ところがあるところまで行くとイカダは何かによって壊されてしまう。

島に戻るともう一度イカダを組み大海原に漕ぎ出すがまた同じように壊されてしまう。海の中には何もいない男は途方に暮れる。

竹藪で寝ていると海岸が騒がしくて行ってみると4人の中世の恰好をした音楽家たちが演奏していた。近づくと消えてしまう夢か蜃気楼なのか・・・。

ふと岩場に目をやるとオットセイの死骸があった・・・自分もいつかはこうなるのか。死骸から毛皮を剥ぎ取り海水で洗い鞣して腰巻とする。

今度は時間をかけて大きめのイカダを作る。イカダで沖に向かうと赤い甲羅の大きなウミガメに遭遇する。その時イカダが下から突き上げられやっぱり壊されてしまう。

海中に投げ出された男のところに大きなウミガメは近づいてくるが、そのまま沖に泳ぎ去る。暫くしてウミガメは砂浜に上がってくる。

怒った男はウミガメを竿でたたき裏返しにする。そのうち夕陽に照らされたウミガメは動かなくなってしまう。次の日の夜男はウミガメが天に昇って行く夢を見る。

男は良心がとがめたのか海水でウミガメの頭を濡らしてやる。男はウミガメの近くで眠る。目覚めると信じられないことにカメ甲羅が割れ中には女がいた。

カメの甲羅から抜け出した女は次の日海の中から出てきた。男は作りかけていたイカダを海に流してしまう。海で泳いでいた男のもとに女が泳いでくる。

男は女の後を追う。そして一緒に暮らし始める。それから月日が流れ、二人の間にはかわいい男の子が生まれる。

三人で楽しく暮らしていく日々は過ぎてゆく。男も女も男の子も幸せだ。

それからさらに月日が流れ男の子は成長して青年になる。青年は二匹のウミガメと泳ぐ。深くもぐると底の方にウミガメの大群がいた。

ある日鳥が騒がしく空を群れる。急に潮が引き始めた、浅瀬に魚が取り残されるほど引き潮が早い。沖を見ると大波が口らに向かってくる・・・津波だ。

男も女も青年も逃げ惑う。津波は竹藪を根こそぎなぎ倒して島を襲ってくる。津波が過ぎ去ったあと島の模様は一変する。小動物はほとんど飲み込まれ死骸となって水面に浮かぶ。

青年は竹藪の中で無事だ。女は足をけがしているが無事に見つかった。男が見当たらない。青年は必至で探し回る。青年はカメの力を借り沖へと泳ぐ。

やっと男を見つけた。男は辛うじて竹に捕まり生きていた。青年は男を後ろから抱えると陸に向かって泳ぎやっとのおもいで戻ることが出来た。女は男を抱きしめ荒れ果てた島の奥へと歩いてゆく。

それからしばらくして青年は一人でいることが多くなってゆく。成長した息子との別れが来た。息子は三匹の若いウミガメと一緒に島を出てゆく。

それからさらに長い年月が経ち、男も女も白髪が目立つようになる。でもふたり仲良く毎日充実した日々を送って行く。

ある夜、男は最後の月を見てまぶたを閉じる。女は男がもう戻ってこないことを悟り嘆く。そしてあのウミガメに姿を変え海に帰って行く。

赤い大きなウミガメが女に変身して島に取り残された男と暮らして行くおとぎ話だ。映画を見てセリフが無いのは納得だね・・・余計なものはいらない。

島に取り残された男は人生そのものだね。島から逃げようとしても逃げられない・・・人生のしがらみってやつかな。自分の息子のように島から出てゆく人間はのはうらやましいし勇気がいる。

映画を見ていて癒されるが、二度ほど寝落ちしてしまった。映像はきれいだし、セリフも無くて、音楽もいい・・・まるで睡眠導入剤のように良く効く。

この映画を見ながらお昼寝することをお薦めする。これだけヒーリング効果のある映画は久しぶりだね・・・眠ったってDVDだからまた巻き戻せばいい。

TATSUTATSU

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