ミステリー小説

ミステリー小説「超常現象研究会」マルチバース世界への旅は可能なのか元の世界に戻れるのか

ストーリー


日々、暮らしにくくなっている昨今、何によりどころを求めればよいのか。何もしなければ時間だけが過ぎてゆく。かといって、自分にノルマを与えすぎるとメンタルに来てしまう。そんな時の箸休めに「寝る前の5分間で読むチョイ恐ミステリー」でものぞいてみて。

 

僕と妻のアケミはリビングでくつろいでいる。もうお互いに70才になってしまった。残念ながら子供は出来なかったが平凡で幸せな人生を歩んでいると思っていた。

そんな時に20歳くらいの青年が訪ねてくる。彼の「顔」を見た瞬間、懐かしさがこみあげて来る。そして僕らは高校生の頃の記憶に引き戻される。

高校1年の頃、仲良し5人組の僕らは「超常現象研究会」と称してUFO・UAPやUMA、心霊現象、仮想現実世界などを遊び半分で調べていた。メンバーは僕とアケミ、ジョージとタケル、そしてそのころ近所でも有名だった将来の天才数学者シゲルだ。

「超常現象研究会」とか「UFO研究会」、「天体観測クラブ」「宇宙探究部」・・・などは何処の学校でもある。そんなに珍しい「部」ではない。しかし、我が部は天才数学者がいることによって一味違う活動をしていた。

シゲルは複雑な数式を操って、宇宙の心理を追求してゆく。波動関数で宇宙を表せると信じている。それに彼は不思議な体験をしている。家を出て狭い路地に入ったところ無色透明な球体を見つけてしまう。普通なら見えないが路地に差し込んだ夕日が偶然、物体を浮かび上がらせた。シゲルは急いで家に戻ってありったけの計測器具を持ってきた。

球体は直径約1メートルくらいで、温度計を差し込んだら20℃だった。大型シリンジで球体のガスをサンプリングし後でガス分析を行う。スマホで何枚も写真を撮った。そして、登山用の磁石を近づけると、クルクル回って方向が安定しない。

紫外線を当てると透明な球体は蛍光を発して目視できる。球体内の物質が励起されるのだ。そして10分程度で蒸発してしまう・・・時間との勝負だ。シゲルは「球体」をワームホールの出口か入り口だと考えている。マルチバース(多元宇宙)理論では我々が住んでいる宇宙は一つではなく無数に存在する。

よく考えてみると、我々人類にとって「地球」とはあまりに都合よすぎる。太陽から遠すぎず、近すぎない。一歩間違えれば金星や火星になってしまう。それに大気や海がある。光の速度、重力、磁力、音速、気温・・・きりがないほど人類にやさしい。

宇宙が無限にあるマルチバース(多元宇宙)でなければこんなことはあり得ない。無数にある宇宙の中には火星人や金星人がいる宇宙があったっておかしくない。

球体のガスを分析したところ、地球の大気と大差がないことが分かった。ただ2点だけ違うところがある。①希ガスと言われるアルゴン、ネオン、ヘリウム、クリプトンがやや多い。②ごく微量だが周期表にない成分が含まれている。これを彼は「マルチバーシウム」と勝手に命名している。残念ながら新物質の役割は分からない。ただ単に出口・入り口を示すものかもしれない。

シゲルは数式を駆使して、次に球体が現れる場所を予想してみる。球体は地球上で数万ヶ所現れると計算上は出てくる。しかし、これを日本列島に絞り込み、かつ我々が観察できる大きさ、場所の割り出しに苦労しているようだ。

例えば球体がはるか上空や地中、深海では観察すらできない。何度も失敗を繰り返し出現場所を推定する。これらの結果半年後、ジョージとタケルは球体の発見に成功する。やっと二つ目だ。そして僕とアケミが三つ目を発見する。

その都度、シゲルは数式を改良する。一年後には十五個の「球体=ワームホール」を予測できた。数式の精度はどんどん向上してゆく。順調にゆきかけたと思った矢先シゲルが失踪してしまう。日本の年間失踪者は9万人を数える。アメリカでは毎日2000人の人間がいなくなっている。彼らは何処に行ってしまったのか。

僕らは手分けして捜索を継続したが一年後も見つからなかった。僕らはその後大学に進学し、就職した。そして僕はアケミと結婚して現在に至っている。ジョージはアメリカに行ってしまった。タケルは数年前に病気で亡くなっている。

50年以上経って僕らの目の前に現れたのはシゲルだった。彼が僕らの目の前に現れるとは、何度も夢を見ているのかと思い返す。シゲルはほとんど年を取っていなかった。でも間違いなくシゲルだ。

彼はワームホール(球体)を通り抜けて多くの宇宙を旅していた。50年以上旅を続けたのに歳を取らないとはワームホールの力なのか或いはマルチバースの物理法則なのか。

僕はシゲルに「過去や未来に行けるのか」と聞いてみた。彼の答えは次のようだ。過去に行くことは出来るが歴史を変えることは出来ない。窓ガラスから外を見るようなイメージだ。しかし、未来はいくらでも書き換えられる。僕はシゲルに「未来の世界はどうなっている」と聞いた。その時彼の顔が曇ったのを覚えている。それ以来、そこには触れていない。

シゲルが僕に向かって「リュウ、俺と一緒にノーベル賞を取らないか」と言った。詳細を聞いたら、世の中には「数学の超難問」がいくつかある。これを解くことによって「ノーベル賞に匹敵するフィールズ賞」や「100万ドルの懸賞金」がもらえる。

最近では「ポアンカレ予想」をロシアの天才数学者グレゴリー・ペレルマンが解いている。多元宇宙を旅していた時、ある宇宙で難問を解いているチームがあった。シゲルもそこに加わりあと一歩のところでチームは解散してしまう。

シゲルはその後も単独で研究を続けた。そしてひらめいた・・・砂漠の中から落ちた針を拾うような作業だが方向性は見えた。あと1年ほどでモノになると思われた時、無性に昔の仲間に会いたいと思うようになった。そしてワームホールの旅を続け僕とアケミの前に現れたのだ。

シゲルは我々の養子ということにしておいて、難問に挑戦させた。部屋にはホワイトボードをいくつも設置し、それを訳の分からない数式で埋めてゆく。約一年たった頃、「難問が解けた」と彼は大きな声で叫ぶ。

3人の名前で論文にまとめ発表した。これが一大センセーションを世界に巻き起こす。そして世界中の数学者が時を忘れて検証に没頭する。何か月後、論文の正当性が証明される。

世界中から講演の依頼が殺到する。さあ、3人で世界への旅に出ようか。僕とアケミは70才になって世界から脚光を浴びた。誰が予想できたことか。人生何がこの先待っているか誰にも分からない、しかし、シゲルだけは遠い未来を知っている・・・。

でもそんなことはどうでもいい。まず、旅行用のスーツケースを買いに行かなくちゃ。

TATSUTATSU

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