SF

映画「ダウンサイズ」感想・評価:人類滅亡を回避するには人体のダウンサイズしかないのか?

サマリー


★★☆☆(そこそこ面白い)

2018年日本公開のアメリカ製作SFコメディ
監督・脚本・製作 アレクサンダー・ペイン(アバウト・シュミット、サイドウェイ、ファミリー・ツリー、ダウンサイズ)
出演 ●マット・デイモン(グッド・ウィル・ハンティングプライベート・ライアン、 インターステラージェイソン・ボーングレートウォールオデッセイ、ダウンサイズ)
●クリストフ・ヴァルツ(ジャンゴ繋がれざる者、ビッグ・アイズ、007スペクター、ダウンサイズ、アリータ:バトル・エンジェル)
●ホン・チャウ(ダウンサイズ)
●クリステン・ウィグ(LIFE!、オデッセイ、ゴーストバスターズ、ダウンサイズ)
●ウド・キア(JM、エクスカリバー、アルマゲドン、メランコリア、ダウンサイズ)

『ダウンサイズ』予告編

今年の夏は実に熱いしかも世界的に異常気象が続いている。この一つの要因として人間の生産活動による二酸化炭素の排出増加が挙げられる。

そして人口爆発による環境破壊、エネルギーの枯渇、食糧の不足・・・これらの問題が懸念される。国連は現在の世界人口73億人に対し2100年には112億人になると予想している。

このドラマでは人間を縮小することによってこれらの問題を解決しようと言うのがテーマだ。例えば自分自身の身長が13cmの小人になったと仮定しよう。食料は今の1/100くらいの量で生きてゆけるかもしれない。年間の食費に100万円かかったとしたら1万円で済む・・・あくまで仮定の話だ。

そうすると100万円あれば100年遊んでも食ってゆけることになる。逆に考えれば自分の資産が100倍になると考えることも出来る。小人になれば大金持ちでかつ大豪邸に住むことが可能なのだ。

主人公のポール・サフラネック(マット・デイモン)は大金持ちを夢見て小人になる決心を妻のオードリー(クリステン・ウィグ)とする。小人になるには細胞を小さくする薬を注射されて特殊な部屋に収容される。部屋に収容される前には体中の毛をそって人工物(虫歯の詰め物など)を除去しなければならない。

暫くして自分の体は縮小しはじめ小人になる。ポールは無事に小人となったと喜ぶがそこに妻のオードリーから電話が架かる。髪の毛や眉を剃られるはとても我慢できないと小人なることを断念したと言うのだ。

いったん小人になるともう元には戻れない。ポールは一人寂しくドームに覆われた小人の国で暮らすことになる。豪邸に住み何不自由の無い暮らしだが心の中にはぽっかりと穴が開いていた。そして思いがけない人との出会いから彼は変わって行く・・・。

あのシャープでクレバーな「ジェイソン・ボーン」役のマット・デイモンが腹ボテで人の良すぎる中年男を演じるとはとても考えられない。このギャップが新鮮だ、しかしこの映画は残念ながら大コケしている。

僕としては「サイドウェイ」のアレクサンダー・ペイン監督のほのぼのとした作風が好きだ。しかしこれをSFコメディに活かせなかったように思う。話はあらぬ方向に行ってしまうし見せ場も少ない。アントマンのようなストーリー展開の方がはるかに面白い。

小人の国と言っても周りが全員小人であれば何ら変わらない普通の人間社会に見えてしまう。やはり普通の人間と小人との対比が欲しかった。両者の葛藤などがもっとうまく表現出来ればそこそこヒットしたかもしれない。

マット・デイモンの冴えない男ぶりが見られて僕としてはかえって新鮮で満足だ。最近の彼の作品は「グレートウォール」「ダウンサイズ」「サバービコン仮面を被った街」と批評家から酷評される作品が相次いでいる。

やはり次は「ジェイソン・ボーン」の続編で再起を図って欲しい。

その後のストーリーとネタバレ

ポールはドゥシャン・ミルコヴィッチ(クリストフ・ヴァルツ)とヨリス・コンラッド(ウド・キア)と言う男と知り合う。ドゥシャン達はたばこや酒などの嗜好品をダウンサイズして小人の国で売りさばき儲けていた。

ドゥシャンの部屋を清掃に来たノク・ラン・トラン(ホン・チャウ)と言う女性とも知り合いになる。ポールは小人の世界が夢の世界ばかりではないことを知る。彼はノクについてバスに乗って行くと小人の国の壁に穴が開いておりそこを通り過ぎるとコンテナを積み上げただけの粗末な貧民街があった。

小人の世界の下層階級の仕事を彼女らが受け持っていたのだ。ノクはベトナム出身だ。人間の小型化は不法移民やテロリストに悪用されこの国に国境を越えてやってくる。従業員がテレビの箱から17人のベトナムの密航者を発見する。その中の唯一の生き残りがノクだ、彼女はこの時の感染症で片足が膝から無い。

ポールはノクの義足を直そうとして壊してしまう。義足が治るまで彼はノクの代理として働く羽目になる。彼女は恵まれない人々に食料を配ったりと人道支援もしていた。

ドゥシャンとヨリスからノルウェーのコロニーに多量の荷物を運ぶ手伝いをしてくれとポールに声がかかる。このコロニーは最も古い小人の国だ。ダウンサイジングを発明したアスビョルンセン博士がリーダーを務めている。

ノクは自分も連れて行ってくれ言う。彼女はアスビョルンセン博士から招待を受けていた。ダウンサイジングの技術が悪用されたことを彼女に謝罪したいらしい。4人はノルウェーに旅立つ。

船にアスビョルンセン博士 夫妻が乗り込んでくる。博士が言うには南極でメタンの放出が温暖化によって加速している。地球は5度の大量絶滅を経験した。色々な要素を加味して計算するとある結論に達したと。

「人類は地球上から絶滅する」・・・環境災害、感染症の流行、大気・水質の汚染、食糧不足、核の冬など何でも想定できる。人類は優れた知能を持っているのにたかだか20万年で滅んでしまう。ワニは2億年生き延びているのに・・・。

地球上で最も古いコロニーに到着した。ビックリすることに、ここには壁や天井が無い。ここは海に近いから蚊がいない、それに鳥も襲ってこない、人間よりネズミの方が美味しいんだろう。

ソルベクと言う女性がある計画を説明してくれた。何十年もかけて1.6Kmの地中深くに地下ドームを建設してきた。そしてそこには住居や森、植物工場、多くの家畜もいる。このドームが実用化出来たのはダウンサイジング技術のたまものだ。ようするに地下の「ノアの方舟」ということになる。

ポールはこれらの話に感銘を受け「穴」に入りたいと言い出す。そしてノクも一緒に来てほしいと懇願する。しかし彼女は人道支援の仕事が地上には有ると断る。ドゥシャンとヨリスもこのコロニーの人々は「カルト」だ、人類はそんなに簡単に滅びないとポールを説得する。

コロニーの人々は最後の夕陽を拝んでぞくぞくと穴に入って行く。ポールもノクに別れを告げ最後尾で穴に入って行く。彼は地下に向かって長いトンネルを歩き始める。ところがやはりノクのことが忘れられない、お互い愛し始めていた。

ポールは出口向かって走り出す。もう穴の扉は閉まりそうだ、ぎりぎりで穴から外に抜け出した。その直後ドアは閉められ、穴は岩で塞がれた。ポールはノクを愛していると言う。そして本当の自分を見つけることが出来たのは君のおかげだと感謝する。

ポールは人道支援の仕事をノクと続けてゆく。

レビュー

ポールは金持ちになり、優雅な生活がおくれると思ってダウンサイズに挑戦したのに、妻から離婚され小人の国で一人寂しく暮らす羽目になってしまった。

目的意識も持てず、日々を何事も無く過ごしてしまう。仕事に熱が入らないし恋人も作ろうとするが上手く行かない。そんなポールがノクに出会い、貧しい人々を助ける仕事に目覚めてゆく。

心温まるストーリーだ。僕はけっこうこんなドラマが好きなんだけど、巷ではあまりヒットしなかったようだ。マット・デイモンが人の良すぎる中年を描いていて面白い。こんな人物が本当に存在すれば誰からも好かれるだろう。

「人や社会の為に働くことが我々人間の生きる道だ」とよく言われるが残念ながら僕はそこまでの境地にたどり着けない。この映画は現代社会をダウンサイジングすべき時と風刺している。

地下ドームにもぐった人々は8,000年後に地上に出て来ると言う。それに対しドゥシャンは彼らは500年後には滅んでいると言う。僕はドゥシャンの言う通りだと思う。人間は閉鎖空間では生きられないからだ。

とにかく僕たちは「拡大」ばかりを目指して生きてきたけど将来のことを考えると「ダウンサイジング」は重要なことかもしれないね。

 

TATSUTATSU

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