サマリー
★★☆☆☆(そこそこ面白い)
2018年8月公開の日本製作サスペンスドラマ
監督 原田眞人(日本のいちばん長い日、関ケ原、検察側の罪人)
原作 雫石脩介「検察側の罪人」
出演 ●木村拓哉(HERO、無限の住人)
●二宮和也(硫黄島からの手紙、GANTZ、プラチナデータ、母と暮らせば、ラストレシピ~麒麟の舌の記憶~、検察側の罪人)
●吉高由里子(ヒミズ、真夏の方程式、ユリゴコロ、検察側の罪人)
●平岳大
●大倉孝二
●松重豊
一昔前には考えられなかった、SMAP木村拓哉と嵐 二宮和也の共演だ。この映画ではエリート検事 最上毅役の木村拓哉にあこがれる新米検事 沖野啓一郎役の二宮和也が描かれる。ところがこの二人はある殺人事件をきっかけに対立してゆく。お互いの捜査方法が大きく食い違ってくるからだ。
現実世界でもSMAPを超えた嵐のように新旧の交代が見られる。二人の下剋上の世界が見せ場の一つでもある。それに演技においても二人は激突する・・・このぶつかり合いをファンはやきもきしながら見るかもしれない。
僕は残念ながら原作を読んでいないので映画だけのレビューになる。検事(検察官)とは刑事事件において被疑者(容疑者)を刑事裁判にかける役割他を担っている。
検事(検察官)とは果たして正義の味方なのかそれとも体制側の擁護者、はたまた自分の思い通りに罪人を決めてしまうエゴイストなのか?人が人を罰する世界には当然冤罪も存在する。しばしば検事の暴走が話題になるが彼らの胸の内は誰にも分からない。
スター二人の脇を固める俳優陣が素晴らしい。骨太で重厚な社会派ドラマで見応えがある。しかしストーリーにやや突飛な部分があり最後の方は感情移入出来なかった。この部分は残念ながらサスペンス性を追求しすぎた代償のように思う・・・少々ボカしてもよかったのでは。
原田眞人監督は二人のスターをどのように処遇するか悩んだに違いない。それに彼の作風はややハリウッド映画に肩入れしすぎている感じがある。各シーンが何処かで見た映画のように感じた。でもアイドル二人を主役にすえながらまあまあな作品を創ることの出来る才能は持っている。
話のスジを少し紹介すると、最上毅検事(木村拓哉)は新任検事50名の教官を任されていた。彼は「検察の暴走」のビデオを見せ検察官は正義を貫かなければならないと力説する。それを見ていた沖野啓一郎(二宮和也)は最上にあこがれる。
4年後沖野は最上と同じ部署になり、彼の指導を仰ぐことになる。同僚には同期の橘沙穂(吉高由里子)がいた。蒲田で老人夫婦が惨殺された殺人事件が起こる。
最上、沖野、橘沙穂は事件を担当することとなる。捜査線上に浮かんだ容疑者5人の内、松倉重生(酒向芳)の名前を見た最上は顔色を変える。この松倉は23年前に起きた「荒川女子高校生殺人事件」の容疑者であったが証拠不十分で釈放され既に時効となっていた。
この時の女子高校生由季は最上が暮らしていた高校寮の管理人の一人娘だった。そして松倉は10代のころにも兄と2人で一家4人を殺害していた、まさにモンスターだった。10代のころに犯した事件は少年犯罪であったことから少年院に送られただけですんでいた。
最上は今回の殺人事件を松倉が犯人だと断定するかのように捜査を進めてゆく。それに対して沖野と橘沙穂は違和感を感じてゆく。果たして犯人は松倉なのか、そして何故最上は彼に固執するのか・・・。
その後のストーリーとネタバレ
沖野は松倉の尋問を担当する。彼は激しい口調で松倉を追いつめてゆく。松倉は耐えきれなくなって23年前の「荒川女子高校生殺人事件」は俺だとポロリと白状する。しかし今回の殺人事件はやってないと言い張る。
このやり取りを別室で聞いていた最上は激昂する、殺された由季は最上の昔、恋人だったのか?。最上は軽犯罪で松倉を逮捕し、彼の部屋などを捜索し証拠固めを急ぐ。ところが弓岡(大倉孝二)と言うヤクザものが真犯人として浮上する。
最上はあせって自分を見失う。彼は闇社会のブローカー諏訪部(松重豊)からソ連製の拳銃を入手する。正義の味方だと思っていた最上は裏では悪人とつながっていた。
最上は弓岡に事情を説明し逃げるように促す。そして山奥の別荘に連れてゆき震える手で弓岡を撃ち殺す。殺した弓岡を別荘の敷地に穴を掘って埋める・・・彼は顔面蒼白で生も根も尽き果てる。倒れかけた最上のところに諏訪部が現われ、後始末をして彼を助ける。
事務所に何食わぬ顔をして戻った最上は弓岡が使った凶器を松倉が使ったように見せかけ第三者によって発見させる。これで松倉を逮捕し罪を償わせることが出来ると考えた。ところが沖野はこれに異を唱え「凶器が発見されてもどうしても辻褄が合わない」「私は松倉がやったと思えない」と言い張る。
最上と対立した沖野と沙穂は検察を止めてしまう。そんな時に弓岡の殺人を見ていた目撃者が現われる。これは決定的であり松倉の無罪が証明され、釈放される。
沖野と沙穂は松倉の無罪を祝うパーティーに出席する。大昔に松倉を助けた人権派の大物弁護士 白川雄馬(山崎努)が主賓だ。ところがパーティー会場から道路に出てきた松倉は暴走してきた車にはねられ即死する。これは諏訪部が仕組んだ事故に見せかけた殺人だ。
松倉を殺したのは諏訪部の独断かそれとも最上が依頼したのか・・・?
暫くして最上は沖野を別荘に呼び寄せる。彼は検察の同期で政治家になった丹野衆議院議員(平岳大)の話をする。丹野は正義感が強く義理の父で大物政治家、高島進(矢島健一)の不正を暴こうとして逆に罪をなすりつけられ自殺していた。
高島進は総理に最も近い政治家だと言われていた。最上は高島進の不正の証拠を丹野から預かっていた。これを引き継いでほしいと沖野に見せるが、彼は断った。沖野の腹は煮えくり返っていた。
最上は心の中では沖野を最も信頼していた。彼は別荘から帰って行く沖野を眺める。最上は自分の時代が終わったと感じた。自殺をするつもりなのだろうかそれとも自首するつもりなのか・・・。
レビュー
「検察側の罪人」の意味深なタイトルを考えてみよう。映画の中で検察官は入った当初は正常な人間だが何年も経つと変人になってしまう。ベテランの検察官の中でまともな者は20%程度しかいない・・・と言っている。
長い間、人間を裁いていると傲慢になってくる。そして自分は「神」ではないかと勘違いする人間が出てきてもおかしくない。ここに出て来る最上がその通りで、しっかりとした司法制度があるのにもかかわらず、人殺しをしてしまう。
つまり、弓岡のような人殺しのチンピラは殺したって当然だと言わんばかりだ。そして殺人事件を引き犯した松倉を証拠をねつ造してまで罪を償わせようとする。
そこには人間のエゴしかない。橘沙穂は検察官内部のそうした恥部を暴露本にしたいと考えている。自分の友人が「冤罪」で命を失ったからだ。
けっこう、テーマの深いドラマだが、現役のエリート検事最上が殺人まで犯してしまうあたりはやや突飛な感じがする。僕は最上には違和感を感じ感情移入出来なかった。
最上役は当初カッコよくて木村拓哉がぴったりだと思っていたが殺人をしてしまうあたりからこの役に向いてないように感じた。なかなかアイドルに殺人鬼を演じさせるのは難しいのか・・・。返ってあこがれの先輩から裏切られても「正義を全うする」二宮和也の方が適役だと感じた。
そういう意味から、前半は木村拓哉の勝ち、後半は二宮和也の勝ちというところかな。トータル引き分けだ。でも従来のアイドル映画と比較するとこの作品は大成功したように思える。
TATSUTATSU
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