ホラー

映画「ザ・ゴーレム」感想・評価:息子を亡くした女がメルカバの秘術を使って蘇らせたゴーレムとは

サマリー


★★★☆☆(お薦め)

2019年日本公開のイスラエル製作・歴史ホラー
監督 ドロン・パズ、ヨアヴ・パズ
出演 ●アイシャイ・ゴラン
●ハニ・ファーステンバーグ

映画『ザ・ゴーレム』予告篇

 

何とも不思議な感覚のイスラエル・ホラー映画だ。「ゴーレム」とはユダヤ教に伝わる動く泥人形のことだ。ヘブライ語では「胎児」を意味する。これを作った主人の命令のみを忠実に実行するがある制約を守らないと狂暴化する。

ゲームの中にはよく出てくるからなじみの深い怪物だ。人間が自分の欲望だけで泥人形を作る。しかし、主人の言うことを聞かず殺戮を繰り返す。「ユダヤのフランケンシュタイン」とも言える。

このドラマでは泥人形は可愛い少年の姿をしている。子供を亡くした母親は我が子が生き返ったと大喜びする。ところが外見に似つかわず中身は「悪魔」だ。主人の思いを邪悪な形(殺人)で実行してしまう。そして嫉妬もする。

大昔のゴーレム伝説を、上手く物語に溶け込ませている。時代背景として、ペストが流行った暗黒の時代だ。疫病が流行ればその原因を「呪い」だと異教徒を殺害・排除する。こんな出来事はその原因が「細菌」や「ウイルス」だと分からない時代にはよくあったと思う。

中世の暗黒時代においては、ゴーレムや悪魔が出たっておかしくない。人々は夜の暗闇の中で色々なあり得ないものを想像しながら生きてきたと思う。そして「呪い」が存在することも信じていた。そんな時代の一エピソードを鮮やかに我々の前に見せてくれる。今夜はこれにどっぷりはまってみることをお勧めする。

話のスジを少し紹介すると。1673年リトアニアの小さな村での出来事だ。時代背景はぺストが流行り、さらに侵略者に怯える暗黒の時代だ。ユダヤ系のコミュニティは森の奥にあったため疫病からは免れていた。

ベンジャミン(アイシャイ・ゴラン)の妻ハンナ(ハニ・ファーステンバーグ)は床下に隠れ宗教指導者ラビの講義を聞く。彼女は7年前に最愛の息子を亡くし、その息子をゴーレムとして再生させようと研究していた。

そんな時にペストマスクを被った侵略者たちが村にやってくる。彼らのリーダーは村の者たちの「呪い」によって自分の娘や仲間たちが死んでゆく。娘の病気を治さなければ村全体を虐殺・破壊すると主張する。村の医師ペルラがその娘を受け取り看病する。

ハンナはゴーレムを作って彼らに対抗すべきと主張する。しかし、それはラビに拒絶される。ゴーレムはモーセでもない限りコントロールすることは出来ないのだと。そして人々を集め祈りを始める。

彼女は「メルカバ」の秘術を使って一人で「ゴーレム」を創造しようとする。そして、神聖な72文字と「創造の書」を用いて儀式を行う。耕していない自然な土で人間の形を作る。そして土の口の中に神の名を書いた巻物を入れ、人形の周りに火をつけ「命を与えよ」と祈る。

ハンナは気を失うが土で作った人形が消えているのを後で発見する。次の日、馬小屋が騒々しく、馬は小屋から逃げる。それを追っていた彼女は侵略者たちに捕まり、縛り首にされそうになる。ところが奴らは一瞬で皆、惨殺される。

そこにいたのは自分の息子のようなゴーレムだった。彼女はゴーレムを作るのに成功したのだ。そして息子のように抱きしめる。ところがそのゴーレムの本当の正体とは・・・。

その後のストーリーとネタバレ

村の男たちは団結して侵略者に立ち向かおうとする。ところが奴らも強い、仲間が殺されベンジャミンもやられそうになったところにゴーレムが現れる。彼は超能力を使って奴らを殺戮し、侵略者のリーダーに向かってゆく。

リーダーは拳銃でゴーレムの体を撃ちぬくがびくともしない。その時、ペルラの治療で小康状態になった娘が現れ父親を連れて村を去る。それを見た村人たちはゴーレムが蘇ったと驚く。しかし、医師のペルラはゴーレムの恐ろしさを知っていた。

彼女は、夜こっそりとベンジャミンとハンナ家に行きゴーレムを砂に戻そうと試みる。ところが逆に惨殺される。ペルラの死体を発見したベンジャミンはラビのもとに走る。ラビは10人の男とともにゴーレムをここに連れてこいと指示を出す。

ゴーレムは音楽が好きだ、ベンジャミンはバイオリンを弾いてゴーレムをラビの処へと誘導する。そのあとを10人の男たちが呪文を唱えながらつづく。ラビは経典を唱えながらゴーレムを土へと戻してゆく。

そんな時、小康状態だった娘を亡くした侵略者のリーダーが部下を伴って村を襲う。村は火の海だ、村人たちも殺される。物々しい音に、儀式中のゴーレムは気づき、ラビを殺す。

ハンナが侵略者のリーダーに殺されようとしたところゴーレムによって返り討ちになる。侵略者たちはすべてゴーレムによって殺されていたのだ。ハンナもさすがにゴーレムの恐ろしさを知ったようだ。

彼女はゴーレムを抱き寄せ口づけするふりをして口の中から巻物を取り出す。その瞬間、ゴーレムは土に戻る。巻物は風に運ばれ母親を殺された少女のもとに転がる。

レビュー

哀愁を誘う結末だ。一般的にはゴーレムは巨大な怪物だ。それを少年にしたところが面白い。生みの親ハンナは亭主に言い寄る女に嫉妬する。

ところがゴーレムはその嫉妬を受け取り女を惨殺する。ハンナは知らないうちに殺人者となっていた。憎悪が肥大化すれば殺人へと繋がる。

最後にゴーレムの口から出た巻物を少女が拾う。彼女もやがて大人になってゴーレムを作ろうとするのか?憎悪は次の者に伝わり拡散してゆく。そんな憎悪の連鎖を描いた作品なのか・・・。

TATSUTATSU

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