ミステリー小説

ミステリー小説「幽玄世界への旅」東北には今でも神や魔物が住んでいる場所がある

ストーリー

 


日々、暮らしにくくなっている昨今、何によりどころを求めればよいのか。何もしなければ時間だけが過ぎてゆく。かといって、自分にノルマを与えすぎるとメンタルに来てしまう。そんな時の箸休めに「寝る前の5分間で読むチョイ恐ミステリー」でものぞいてみて。

 

今からもう何年前になるだろうか。僕は親友のユウスケと新緑の東北を一週間の日程で旅した。彼とは東京駅で待ち合わせることとした。ところが一時間程待ってもなかなか現れない。

そこに真っ青な顔をしたユウスケがやっと現れた。家の方でゴタゴタがあったようだ。別に急ぐような旅ではない。電車を乗り継ぎ途中下車して好きな場所をめぐるだけだ。

まず福島からスタートだ。江戸時代に宿場町として栄えた「下郷町」を歩く、緑の風が心地いい。やや観光化されているがまあいいだろう。そして磐梯山の北側に位置する「五色沼」を散策する。疲れたら民宿に泊まり温泉に入る。

山形から宮城へ抜ける。ほとんどは電車と徒歩で行く工程だ。ここで不思議なことに出会う。電車に乗っていると乗客たちが僕の顔を見る。僕の顔になんかついているのか少し気にはなったが特段問題ではない。

宮城は仙台を中心に観光巡りをする。仙台は数年前に「定禅寺ジャズフェスティバル」に来ている。緑の多い素敵な町だ。カフェに入ったり、町を歩いたり、新緑の森を散策したりと充分に堪能できた。

ところが岩手に入ってからガラリと雰囲気が変わった。特に遠野近辺になると何か不思議な風が吹く。小川沿いを歩く。ユウスケは川から外れてうっそうとした森の中に入ってゆく。そこは昼でも暗い。遠野には不思議な伝承が多く、今でも言い伝えが残っている。

後から来た中学生くらいの少女から話しかけられる。彼女は地元の子らしい。僕に向かって「何処から来たの」「何処に行くの」「目的は何なの」・・・など次から次へと質問攻めだ。しかも、ユウスケではなく、僕ばっかりに話しかける。

「僕は東京から来て、青森まで旅をする。」「気楽な旅で目的はない。」「できれば青森の半島まで行きたい。」と答える。「半島の恐山付近は行かない方がいいよ・・・怖いから。」と少女は答える。

そして、別れ際に不思議な話をする。「今日は森がざわめく」「森がざわめくときは得体の知れないものが来るとき」「何かが起きる」「気を付けて旅をして」・・・と側道に消えてゆく。

突然霧が流れてきて僕らの周りを覆う。その霧が晴れるとあたり一面にホタルが群れ、ユウスケの体を包むように集まってくる。きれいで幻想的だ。ところがよく見ると蛍ではない・・・小さな光の玉オーブだ。確かにホタルにはまだ早い季節だ。

これだけのオーブを見るのは初めてだ。死者の魂だと言う人がいる。過去から現代まで亡くなった人々が彷徨っているのかもしれない。しかし、それが何故ユウスケの体に集まるのか。オーブは暫く乱舞し蒸発するように消えてゆく。

ユウスケがあそこの木の横を見て見ろと僕の肩を掴む。10mほども先だろうか・・・確かに木の陰に何かいる。よく見えないが天狗や河童のような妖怪なのか。さらに、それは飛び跳ねたりする・・・座敷童か。

普段、全く霊感の無い僕でさえ何かが見えてしまう。目の錯覚かもしれないがそうでないかもしれない。僕のそばに昔から霊感の強いユウスケがいるからか・・・。僕は少し気味悪くなって明るい方に向かった。車も通りそうな道に出て宿場町へと向かう。今夜はここに泊まろう。

宿でユウスケは僕に弱みを見せる。彼は泣きそうな顔をしながら「いつまでも友達でいてくれよ」と訴える。こんな悲しい彼を初めてみた。僕は「何言ってるんだ、いつまでも友達だよ」と勇気づける。でも、彼の存在が消えゆくような気がした。

次の日は青森県に向かう。奥入瀬渓谷を通過して恐山にコースを決めている。突然、ユウスケが「ここから先は行けない」「リュウ、一人で行ってくれ」とびっくりすることを言う。「ここから先は僕の世界ではない」と何かに怯えているようにも見える。

ユウスケを一人で返すわけには行かない。僕は「一緒に帰ろう」と言った。ところが彼は「恐山へ行って僕のために御札をもらって祈ってきてくれ」と言う。恐山には「地獄」と「極楽」がある。「極楽浜で僕の無事を祈ってほしい」・・・何故かそんなことを言う。

僕は仕方なくユウスケと別れて一人で最後のコースへと歩き出した。下北半島まで来た。火山の硫黄臭が鼻につく。火山ガスで草木が生えない、また、ここには生き物が寄り付かない。まさに地上に現れた「地獄」だ。

地下に「地獄」があるとすれば、こんな荒涼とした行けども行けども何もない場所なのかもしれない。植物や生き物がいないことがこれだけ僕らの心を寂しくさせる。確かにユウスケが言うように「ここから先は僕らの世界ではない」・・・。僕は急ぎ御札をもらい、祈りを捧げて引き返した。

東京駅についてからユウスケに電話した。なかなかつながらない。しばらくして女性の声が聞こえてきた。携帯をとったのはユウスケのお母さんだった。そして信じられない話をする。

ユウスケは一週間前に亡くなっていた。僕との約束で東京駅に来る途中、信号無視の車に跳ねられ「即死」だったそうだ。では、僕と旅をしていたのはユウスケの魂なのか。

彼は僕との約束を果たすため、急いで東京に来た。ユウスケはこの時、自分の「死」と言うものを受け入れていない。いやただ単に知らなかったと思う。

そして僕と旅をするうちに徐々に自分が「この世のものではない」と気づいた。でも、僕は最後まで気づけなかった。振り返るとユウスケの魂と旅を続けていたのだ。彼は「地獄」を物凄く恐れた。魂にとって落ちてはならない場所だ。

彼の魂は今何処にいるのだろうか。天国に行っただろうか・・・。僕は彼の最後の言葉「僕のことを忘れないで」が今でも鮮明に耳に残っている。「一生忘れることは無い」「あの東北の一週間」・・・。

今まで生きてきた中でこんなに幻想的な旅は初めてだ。そして記憶の中では何度でも「これは夢だ」と思うことがある。あの場所、・・・親友ユウスケでさえも夢の中の住人のような気がしてくる。

長い年月が経つとどんなにつらい出来事でもオブラートに包まれたように懐かしく感じる。自分はこの世にまだいるんだろうかとも思ってしまう。

ただ、今では旅行で撮った写真だけが「事実」のよりどころだ。若い時の自分が写っている。がそこにはユウスケは写っていない。でも間違いなく彼はいた。なぜなら僕の心には彼の思い出が深く刻まれているから。「ユウスケ、君のことは忘れないよ」・・・。

 

TATSUTATSU

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