ミステリー小説

ミステリー小説「意識と肉体は分離されている」これを証明するには宇宙を調べることと同じだ

ストーリー

 


日々、暮らしにくくなっている昨今、何によりどころを求めればよいのか。何もしなければ時間だけが過ぎてゆく。かといって、自分にノルマを与えすぎるとメンタルに来てしまう。そんな時の箸休めに「寝る前の5分間で読むチョイ恐ミステリー」でものぞいてみて。

 

かつて僕は宇宙飛行士だった。そして宇宙での不思議な体験が僕の考えを変えてしまった。意識は我々の「脳」にあると考えていた。ところが昨今では新たな説が出ている。「意識」と「肉体」は分離されている。「脳」は単なる「意識」を受け取る「受信機」に過ぎないと・・・。

僕が宇宙で任務に当たっていた時、宇宙ステーションから出て船外活動をしていた。その時、黒い雲のようなものに覆われた。宇宙に雲があるなんておかしな話だが僕にはそう見えた。

暫くして僕は毎晩、不思議な夢に襲われるようになった。過去に自分が隠したいと思っていた「心の傷」が次々と夢の中に蘇ってくる。小さい時にケンカして同僚を傷つけたこと、嘘を言って逃げようとしたこと。青年になってから恋人を裏切ったこと。

そして友人を騙したこと。ライバルを蹴落としたこと・・・・きりがない。夜寝るのが怖い、寝汗をかいて目が覚める。そのうち幻影を見るようになる。宇宙ステーションの窓から何かが見え始める。それは徐々に人間の姿のようになる。僕の知っているAさんだ。その人は船外活動中に不慮の事故で亡くなっている。

僕の心はズタズタに引き裂かれる。そして、僕は体調不良をリーダーに訴える。地球への帰還を急いでもらうほど悪くなっていた。地球に戻った僕は8畳くらいの部屋に突然「監禁」される・・・何故だろうか。しかも24時間の監視付きだ。そして約1ヶ月間独房の中で生活した。

気分が少しづつ晴れてゆく。あれだけ落ち込んでいたのに・・・。そして解放される。宇宙に出ると多くの飛行士が宇宙酔いに罹る。頭痛・吐き気・倦怠感・食欲不振などが症状として出てくる。地球と違って上下・左右の区別がない。

宇宙では常に体がフワフワ浮かんでいる。原因の一つとして耳の奥の三半規管が正常に機能しない。聴覚情報や視覚情報と体のバランスが一致せず、脳が誤作動を起こす。

しかし、宇宙酔いは数日程度で快方に向かう。僕の場合はこれの酷いヤツか、全然別物の病気かもしれない。一般的に多くの飛行士は幻影を見ている。月に着陸した時、月面上に何かがいる。或いは建物がある・・・と言う都市伝説みたいなことは結構ある。

そして心理的重圧や長期の閉鎖環境の中での苦痛が訳の分からないものを見せる。特に多いのが閃光現象だ。目を閉じていても光の点や線、雲のような広がりが見える。

僕は「監禁」から解放され、地上勤務に戻った。そしてその間に宇宙医学博士や宇宙研究者たちとの面談を受けた。B博士はその中でもリーダー格だ。

彼が言うには僕と同じような経験をした宇宙飛行士が過去3人いた。しかし、みんな自殺してしまった。だから今回監視付きの部屋に監禁した。君をそんな目に会わせたくないからだ。その話を聞いて僕はびっくりした。

B博士は話を続ける。宇宙には「意識の海」「意識を持った暗黒物質」「コスモゾーン」などと呼ばれる不思議なエネルギーの集合体が間違いなく存在する。人間は古くからこれと交信してきた。そして「意識」と呼ばれるものを手に入れた。

これは人間や高等な動物のみが獲得した特権だ。コンピーターはどんなに進化したとしても「本当に物事を考えている」のか? 単なる検索エンジンの集合体ではないのか・・・つまり「何も考えていない」。

僕たちが「意識の海」と呼んでいるものはいったい何だろう。ここから我々の脳に送り込まれた「意識」が僕らを作っている。「意識の海」は何処にあるのだろうか・・・宇宙全体に広がっているのか。

B博士はこの「意識の海」の研究を長年行っている。しかし、ここに近づくほどリスクは大きくなってゆく。この場所は「聖域」なのではないかと思う。だからここに触れようとしたものに対し「防御本能」が発動される。最初は「悪夢」そして「幻影」にエスカレートする。

B博士は一枚の写真を僕に見せてくれた。それは僕も見たことのあるAさんだ。宇宙ステーションの窓の外にいる。僕が「幻影」と思っていたものが「実体」だったのだ。既にAさんは地球に埋葬されている。そう考えるとこのAさんは「意識の海」が作り出したものとしか考えられない。

「意識の海」の防御本能・・・最初は「悪夢」そして「幻影」さらに「実体」へ。そしてこの「実体」は僕らをどうしようとしていたのか。B博士はこの現象はどんなに研究しても「解明不可能」だと明かしてくれた。

僕は数年間、宇宙関連の施設で働いていた。しかし、自分の身に起きた出来事によって「世界観」や「宇宙観」「社会観」が変わってしまった。僕はそこを退職し、今は農業に従事している。

もう5年も経つだろうか。ビニールハウスでトマトを栽培したり、露地栽培でキュウリ、ナス、ピーマン、大根、葉物野菜を栽培してきた。今年はメロンやスイカに挑戦しようと考えている。

体が次第に土になじんでゆく。最近、空気や水が美味しく感じるようになってきた。日の出前に愛犬と畑に行き、日没に家に帰る生活。これが生きている実感を感じさせる。徐々に宇宙の記憶は薄れ始めている。死ぬまで朝日を拝めるなんて最高じゃないか・・・。

TATSUTATSU

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