サマリー
★★★☆☆(お薦め)
2018年5月日本公開のアメリカ・ドイツ合作のストップモーション・アニメ 犬と人間の物語
監督・脚本・原案 ウェス・アンダーソン(グランド・ブダペスト・ホテル、犬ケ島)
声の出演 ●小林アタリ:コーユー・ランキン(野田哲平)
●スポッツ:リーヴ・シュレイバー(森川智之)
●チーフ:ブライアン・クランストン(楠大典)
●レックス:エドワード・ノートン(川島得愛)
●キング:ボブ・バラバン(川中子雅人)
●ボス:ビル・マーレイ(石住昭彦)
●デューク:ジェフ・ゴールドブラム(横島亘)
●ナツメグ:スカーレット・ヨハンソン(遠藤綾)
●小林市長:野村訓市
プロローグだ。
CG全盛の世の中に、ストップモーション・アニメ映画(人形などを少しずつ動かしてコマ撮りし、それらをつなげて動いているように見せる手法)を造るとはウェス・アンダーソン監督は只者ではない。4年の歳月と670人ものスタッフを動員し、毎日人形を少しずつ動かしては撮影する、気の遠くなる作業だ。
未来の日本が舞台だ。日本人の僕からしたら、陳腐な日本なんだけど、何故か親しみが持てる。日本人スタッフ野村訓市さんが参加していることが大きい。でも、外人から見た日本は着物を着たり、下駄を履いたりと江戸時代のイメージなのかな。
あまりにもシュールでクールな映像に、ただただ驚くばかりだ。未来の「笑い」とはこんな形なのかも知れない。画面に出て来る人形たちはひたすら真剣な顔をして動く。見てる僕は「こりゃ何なんだ」と笑うよりびっくりさせられる。
その場ではゲラゲラ笑うようなアニメではない。家に帰ってしばらくしてから、思い出すように「ニヤニヤ」するのがこのコメディの神髄だ。(どの場面がジョークでどこが真剣なシーンかまるで区別がつかない、丸ごとジョークと考えた方がいい)
はっきり言ってこんなシュールなアニメ、ガキんちょに理解できるのかはなはだ怪しい。やっぱり大人のアニメだと思う。ウェス・アンダーソンは日本を敬愛していて、映画の中に彼のフィルターを通したおかしな日本が描かれる。
カブキ、フジヤマ、スモウ、タイコ、チャンバラ、サクラ、ハイク、ウキヨエ・・・・・もうきりがない。彼は日本映画 特に、黒澤明、三船敏郎、宮崎駿、小津安二郎などに強い影響を受けている・・・じつにおもしろいおっさんだ。
しかし、おもしろ・おかしな映画だけではない第68回ベルリン国際映画祭 銀熊賞(監督賞)を受賞している。それに声優たちが半端なく豪華だ、あのオノ・ヨーコまで出て来る。彼女のギャラはいくらかなんて考えちゃうね。
アメリカでは大ヒットしたらしいが、少し特殊な映画だから日本でヒットするか不明だ。でも見ておく価値は十分ある。特に僕のような「犬好き」には堪えられない作品だ。
物語のスジを少し紹介しておくと。今から20年後、未来の日本ウニ県メガ崎市が舞台だ。ここではドッグ病が蔓延し人間への感染が心配された。小林市長(野村訓市)は全ての犬たちを「ゴミ島」別名「犬ケ島」に追放しようと考えていた。
まず手始めに市長宅の護衛犬スポッツ[リーヴ・シュレイバー(森川智之)]が島流しにあう。スポッツは小林アタリ少年[コーユー・ランキン(野田哲平)]の護衛犬だ。
小林アタリは新幹線事故で両親を失い小林市長に養子として引き取られている。アタリは小型飛行機に乗ってスポッツを探しに「犬ケ島」へ行く。
小林市長は猫派で代々犬が嫌いだ。だから犬を排除しようと企む。実はドッグ病は渡辺教授によってワクチンが出来上がっていた。しかし彼は小林市長に軟禁され、毒わさびによって殺されてしまう。
小型飛行機に乗って「犬ケ島」に渡ったアタリは、不時着時の事故で頭に部品が突き刺さってしまう。彼は5頭の犬たちによって介抱される。
その犬は家の中で飼われていたレックス[エドワード・ノートン(川島得愛)]、ドッグフードのCMに出ていたキング[ボブ・バラバン(川中子雅人)]、野球チームのマスコット犬ボス[ビル・マーレイ(石住昭彦)]、デューク[ジェフ・ゴールドブラム(横島亘)]、そしてノラ犬のチーフ[ブライアン・クランストン(楠大典)]だ。
5頭の犬たちはアタリに協力してスポッツを探しに島を探検する。そこに立ちふさがるのがロボット犬を連れた市の捕獲隊「市庁タスクホース」だ。果たしてアタリ達は捕まってしまうのか、そしてスポッツを見つけることが出来るのか・・・。
その後のストーリーとネタバレ
何とか市の捕獲隊「市庁タスクホース」をやっつける。そして5頭の犬を連れて島を探検する。まず、初めに彼らは伝説の予言犬ジュピター[F・マーリー・エイブラハム(屋良有作)]とオラクル[ティルダ・スウィントン(町山広美)]に助言を乞う。
ノラ犬のチーフは恋するナツメグ[スカーレット・ヨハンソン(遠藤綾)]からもアタリを助けるように言われていた。ジュピターの予言では、もしスポッツが生きていれば獰猛な先住犬にさらわれている可能性が高いと言う。アタリと5頭は離れ小島にケーブルを使って移動するが、離ればなれになってしまう。
アタリとチーフ以外は何処かに消えてしまった。アタリとチーフは旅を共にし心を通わせて行く、彼はチーフをきれいに洗ってあげる。そうしたら黒かった体から汚れが落ちなんとベージュ色のスポッツと同じ毛並になった。ただ鼻の色だけは黒い、スポッツは茶色だ。
その頃、メガ崎高校では学生新聞「The Daily Manifesto」のヒロシ編集員(村上虹郎)と交換留学生トレイシー[グレタ・ガーウィグ(戸松遥)]が小林市長の陰謀を嗅ぎ取り調査を始めていた。
アタリとチーフは先住犬が住む島へと渡る。そしてそこでやっとの思いで仲間4頭と合流すると島を調べ、スポッツとめぐり合う。スポッツは元気だった、そして彼には仔犬が生まれていた。それにスポッツはチーフの兄だったことも判明する。
スポッツやチーフをリーダーとする犬たちは船やイカダを使ってメガ崎市へ攻め込もうとしていた。ここからがアタリの正念場だ、自分の義理の父と対決しなければならない。
ヒロシ編集員と交換留学生トレイシーは犬の復権運動を始めるそして小林市長を糾弾する。殺された渡辺教授の助手ヨーコ・オノ[オノ・ヨーコ(石塚理恵)]はワクチンを持っていて、皆の前でワクチンの有効性を証明する。
追い詰められた小林市長は力でねじ伏せようとするがアタリが対峙する。しかしアタリは倒れる、病院に緊急搬送される。頭に飛行機の部品が突き刺さっているだけではなく腎臓もやられていた。
彼を生かすには腎臓移植しかない。その時、自分の腎臓を使ってくれと養父である小林市長が病室に入ってくる。小林市長は目が覚めたようだ、腎臓移植が始まりアタリは危機を脱する。
これ以降、犬たちの復権活動は成功する。そして昔と同じように人間と犬は幸せに暮らす。
レビュー
それにしても、けったいなドラマだ。見ていて唖然とする、でも犬たちはもの凄く可愛い。やっぱり結末はハッピイエンドがいいね。冒頭のタイコの三人組・・・・なんだろうね、最初からウェス・アンダーソン ワールドに吸い込まれてしまう。
欧米系の人が見たら、これが今の日本だなんて、勘違いされては困る。そうでなくても彼らは、中国と日本の区別があいまいだ。
小林市長は三船敏郎さんがモデルらしい。それにストーリーも「七人の侍」や「用心棒」なんかを意識しているかもしれない。
日本人の名前に「アタリ」なんて聞いたことありません。しかも姿は宇宙服にゲタ、言葉は英語なまりの日本語だ。交換留学生トレイシーがアフロヘアでそばかす顔、しかも彼女は世界のオノ・ヨーコをどつく・・・こんな役よく了解したものだ。
どうでもいいところ(アタリ少年を手術する外科医)に世界の渡辺謙が出て来る。しかも日本語でくだらないことをしゃべる。このシュールさは果たして何人の人が理解しているのか・・・。
とにかく、ウェス・アンダーソンの悪趣味に付き合わされている105分だ。最後に新幹線事故でアタリの家族が亡くなってしまう設定(新幹線は今までの半世紀、事故を起こしていません)やキノコ雲が出て来るところはもう少し気を配ってほしかったね。
TATSUTATSU
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