サマリー
2003年公開の韓国サスペンス映画、監督はポン・ジュノ、主演はソン・ガンホである。音楽は岩代太郎で作品を盛り上げている。
華城連続殺人事件を元に作られた戯曲の映画化である。しかし、実在の事件を扱っているが、中身はフィクションとのことである。「華城連続殺人事件:1986年~1991年に華城市周辺で女性10名が惨殺された未解決連続殺人事件、警察関係者動員数 約167万人、捜査対象者 約21,000人」
韓国のアカデミー賞と言われる「大鐘賞」3賞を受賞しており、ソン・ガンホが最優秀主演男優賞を獲得している。もちろんポン・ジュノは最優秀監督賞を34才で受賞している。
最初にこの作品を観た時、凄い監督が出てきたなと思った。彼の作品は「グエルム-漢江の怪物-」「スノーピアサー」を観ている。最近では「パラサイト 半地下の家族」が素晴らしい。
凄惨な婦女暴行殺人事件を描いており、生々しい描写と激しい暴力、そして結末のスピーディーな展開が素晴らしい。特に、ソン・ガンホ、キム・サンギョン、パク・ヘイルの演技が白熱しており記憶に残る。
パク・トゥマン(ソン・ガンホ)とソ・テユン(キム・サンギョン)
ストーリー
ストーリーを少し紹介すると、韓国南部の農村で手足を縛られて殺された女性の腐乱死体が発見される、それからしばらくして第2の事件が同様の手口で起こる。
地元の刑事パク・トゥマン(ソン・ガンホ)とチョ・ヨング(キム・レハ)そしてソウルから派遣されてきた大学出のエリート刑事ソ・テユン(キム・サンギョン)が班長のもとで捜査チームを組む。
パク・トゥマンはガサツで暴力的な田舎刑事で、彼の同僚チョ・ヨングも暴力刑事である。これに対しソ・テユンは物証を重視する理論的で冷静な刑事である。・・・・・両者の対比が面白い。
しかし、二人とも方法は異なっていても、犯人捜査にかける情熱においては差はない。
第一の犠牲者、腐乱した状態で農水路で発見される。
パク・トゥマンは殺された女に付きまとっていた男ペク・グァンホ(パク・ノシク)を署に連行し、地下室で拷問しながら、供述調書をねつ造してゆく。
しかし、ペク・グァンホは精神薄弱で、小さい時に火傷を負い手が不自由である。ソ・テユンは彼の手を見て殺人が出来る男では無いと、パク・トゥマンに意見をする。
パク・トゥマンは刑事にしか知り得ない情報をペク・グァンホが持っていたことと、彼の長年のカンが働いていた。ところが、取り調べ中に新たな惨劇が起こる。ペク・グァンホは無実であった・・・・・この件で班長は更迭される。
最初の容疑者ペク・グァンホ(パク・ノシク)
事件は振り出しに戻るが、ソ・テユンの冷静な分析で、殺人は雨の日にしかも赤い服を着た女がねらわれていることが分かる。
そして新情報として、殺人当日同じ歌「憂鬱な手紙」がラジオ局にリクエストされていることも明らかになる。リクエストの差出人はヒュンギュ(パク・ヘイル)である。
そんな時鑑識から被害者の服から精液が発見され、ヒュンギュのDNAと照合することとなった。しかし韓国にはDNA鑑定の技術が無く、アメリカに送らなければならない。
さらに、犯人に殺されずに運よく生き残っていた女が見つかる、その女は犯人の顔は見ていないが、犯人の手が「女のように柔らかかった」と証言する。
有力容疑者ヒュンギュ(パク・ヘイル)
ソ・テユンはふとひらめく、最初に容疑者にされてしまったペク・グァンホは、殺人の目撃者ではないのか・・・・彼に会いにソ・テユン達は急ぐ。
ところがペク・グァンホは、また捕まって拷問されると勘違いし、線路に逃げる・・・・そして運の悪いことに列車にはねられ即死する。
容疑者ヒュンギュを尋問するも、決定的な証拠がなく釈放せざるをえない、ソ・テユンは諦めきれず、彼を張り込む。
長時間の張り込みで眠りかけた時、容疑者ヒュンギュはバスに乗って消えてしまう。あわてたソ・テユンは警察を総動員して彼の行方を探る・・・・・しかも運の悪いことに雨が降ってきた。
あくる朝、女子高校生が惨殺死体で発見される。死体を見たソ・テユンは完全に切れる・・・・容疑者ヒュンギュを引っ張り出し、激しい暴力で問い詰める。
ソ・テユンは最後には拳銃を抜き、彼を射殺しようとさえする。その時パク・トゥマンがDNA鑑定の結果を持って駆け付ける。
ソ・テユンは封筒を開ける・・・・・・果たして容疑者ヒュンギュは連続殺人犯か、是非映画を観てほしい。
ネタバレ
<ここからネタバレするので、映画を観てから読んでね>
パク・トゥマン役のソン・ガンホはこの時35才で若々しく見える、田舎臭い刑事の役をうまく演じる。彼の捜査方法は見るからにめちゃくちゃで、足とカンで自分なりの捜査を行う。
突飛な考えと、最後には占い師まで頼る、行き詰れば容疑者を拷問し調書をねつ造しようとまでする。
ソ・テユンはそんなパク・トゥマンを見て苦々しく感じる・・・・・水と油である。しかし、パク・トゥマンも冷静で理論的なソ・テユンを認めるようになってくる。
逆に、ソ・テユンは捜査に行き詰まり、もっとも嫌っていた暴力を容疑者にふるうようになる。パク・トゥマンから「お前、変わったなー」と言われる。・・・・・・二人の捜査方法が入れ替わって行くのが面白い。
女が殺人犯に襲われるシーンが実にリアルである。思わずどきっとする・・・・・草むらから殺人犯が顔を出して女の行方を追ったり、犯人の視点で襲う瞬間を切り取ったり・・・さすがだと思う。
ソ・テユンが容疑者ヒュンギュを見失ってからの動きが、バックに流れる音楽と太鼓のリズムで不安を盛り上げることに成功している。(岩代さんの音楽が素晴らしい。)
ソ・テユン役のキム・サンギョンの演技も素晴らしい、ソン・ガンホを食ってしまっている場面も多多ある。
また、物語当時の田舎の雰囲気や、人々の生活・風俗が生々しく再現されている。
結局、容疑者ヒュンギュのDNAと死体に付いていた精液のDNAは一致せず、未解決となってしまう。
その後パク・トゥマンは刑事を辞めサラリーマンとなる。そしてたまたま通りかかった事件現場に立ち寄り、死体があった農水路を覗き込む。
その時通りかかった少女が「さっきも同じようなことをしていた人がいたよ」とパク・トゥマンに話す。彼は少女に「どんな顔をしていたか」と尋ねる。「どこにでもいる普通の顔をしていたよ」とこたえる。
パク・トゥマンは呆然と、立ち尽くす。・・・・・・・最後のシーンがいつまでも記憶に残る。やはり映画は最後のシーンが重要だね・・・・これ次第で映画の価値が変わっちゃうね。
追伸:2019年9月19日 「華城連続殺人事件」の犯人が30年ぶりに特定される。現在刑務所に収監中の男のDNAが現場のものと一致したとのことだ。詳細はニュースを見てほしい。
TATSUTATSU
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