ミステリー小説

ミステリー小説「真夜中の幽霊バス」丑三つ時に町中を走るバスを見たことはあるか

ストーリー


日々、暮らしにくくなっている昨今、何によりどころを求めればよいのか。何もしなければ時間だけが過ぎてゆく。かといって、自分にノルマを与えすぎるとメンタルに来てしまう。そんな時の箸休めに「寝る前の5分間で読むチョイ恐ミステリー」でものぞいてみて。

 

 

海外出張から成田空港に帰ってきた。疲労と時差ぼけで体が限界に来ている。本来なら電車で帰るところだが今日は深夜バスを利用することにした。

バスターミナルには多くの人が並んでいた。僕は疲労からベンチに腰掛けてバスを待っていた。ウトウトしたのか気が付くと周りには誰もいない。寝過ごしたようだ。その時、バスが入ってくる。僕は乗り過ごさないように急いで中に入った。

バスの中に乗客は僕一人だ。車内は薄明かりで幻想的な趣がある。バスは高速を通ってアクアラインに差し掛かる。何の気なしに海を見た。海には無数のエビが飛んだり跳ねたりと何かから逃げるように泳いでいた。

エビの後ろを見ると大きな魚たちがエビを食おうと集まっている。魚をよく見ると頭のでかい「人面魚」のように見えた・・・不気味だ。バスは道路を走っているはずなのに、海面を走っているような錯覚にとらわれる。

水平線には漁火がテラテラと輝く。頭上を見るとお月さんが異常なほど赤く光る。そして、海面に映ったお月さんは骸骨のように見えた。何だろうか今日はおかしい・・・。

海を渡りきって町の中に入ってゆく。バスは町の中をところどころ止まって乗客を乗せる。少しづつ席が埋まってゆく。みんな何故か青白い顔で生気がない。誰も話をしないから車内も静かだ。ただ、バスが風を切る音とタイヤの振動が伝わってくる。

やっと僕の家の近くに来て止まった、そこで近所のTさんが乗り込んできた。僕はTさんに「こんばんわ」とあいさつしたが彼は僕をチラッと見るだけで無視する。僕は降りようとしたところドアが閉まる。「降りまーす」と叫んでも運転手は素知らぬ顔でバスを走らせる。

バスは僕の家からどんどん離れてゆく。ふと外を見ると草原を走っている。ススキの穂がなびいている。背高泡立草の黄色がやけに目立つ、穂が窓に当たって黄色くなる。

しばらく行くと真っ赤な毒々しい花をつけた木々が続く、瞬間ではあるがそこに白い蛇が巻き付いていた。バスは何処に向かっているのだろうか・・・心配になる。

窓の外は見たことのない世界だ。そして河原を川と平行に進んでゆく。河原には無数の人々がいた。バスはどんどんスピードを上げて進んでゆく。正面に真っ黒な大きな門が見えてきた。門の先には巨大な建物が輪郭を現してきた。あそこが目的地なのだと感じた。

その時、門の少し前で急に止まった。運転手が僕の所に来て「降りろ」という。こんなところで降ろされても困ると思いながら運転手を見たら彼の目が光った。大慌てで降りたと同時に目が覚めた。

僕は病院のベッドで寝かされていた。家内が心配そうな顔をしてのぞき込む。後で聞いた話では、僕は停留所で倒れたようだ。近くにいた人が救急車を呼んでくれて、応急措置がほどこされた。一時、心臓が止まったが心臓マッサージのおかげで息を吹き返した。

主治医の話ではあと一歩遅れれば危なかったと言われた。「生死は紙一重」だ。僕は恐ろしい夢を見ていたのだ。まさに幽霊バスに乗っていた。あのまま、門をくぐればもう、戻ってくることはないと思う。背筋が寒くなるような出来事を経験した。それからご近所のTさんが亡くなったと後で知った。

くれぐれも、真夜中の「幽霊バス」に乗ってはいけない。見かけても知らない顔をして無視するのだ。もしあなたの目の前で止まったら走って逃げなさい。「死」から逃げるのです。

一時、大ブームになった「きさらぎ駅」も同様な現象だ。静岡県の遠州鉄道沿線からつながった異世界への「幽霊電車」・・・。間違ってこれに乗り込んでしまうともう二度と戻れない場合がある。

我々の近くには恐ろしい「異世界・異空間」が存在する。それらは時として大きな口を開けて我々が来るのを待っている。日本の年間の行方不明者は8万人以上と言われている。

その中の何人かは「幽霊バス」、「幽霊電車」に誤って乗ってしまったのかもしれない。もう死んでしまった人間であれば「魂」の行く先は決まっている。しかし、生身の体であればこれらから降りることが出来ず、いつまでも「異世界・異空間」を漂うことになる。

僕の不思議な体験が皆さんの役に立てば幸いだ。ではまた会いましょう。

TATSUTATSU

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