邦画

映画「すばらしき世界」感想・評価:堀の中から外に出たヤクザの悲しくてあたたかい運命

サマリー


★★★★☆(見るべき名作)

2021年2月公開のヒューマンドラマ
監督・脚本 西川美和
原作 佐木隆三「身分帳」
出演 ●役所広司
●仲野太賀
●六角精児
●長澤まさみ

映画『すばらしき世界』本予告 2021年2月11日(木・祝)公開

 

久しぶりに感動した映画だ。西川美和監督が元殺人犯がシャバに出て現実社会の苦悩に悩む姿をリアルに描くとは。原作は「復讐するは我にあり」で直木賞を取った佐木隆三の小説「身分帳」だ。「身分帳」とは「刑務所で収容者の経歴や入所時の態度などがかかれた書類」のことだ。

主演に役所広司を起用したことが映画の成功につながった。それに助演の仲野太賀の演技も役所に劣らず素晴らしい。とにかく演技の上手い若手・ベテランを揃えた監督の熱意に脱帽する。

この映画を一言で言い表せば「この世界は生きづらく、あたたかい。」となる。これが映画の日本語タイトル「すばらしき世界」につながる。

僕はこの映画で一番感動した場面は、主人公三上(役所広司)が世間に相手にされず、またヤクザの世界に戻ろうとした時、それを止めてくれるマス子(キムラ緑子)が言い放った言葉「あんたは、これが最後のチャンスでしょうが。娑婆は我慢の連続ですよ。我慢のわりにたいして面白うもなか。そやけど、空が広いち言いますよ」の部分だ。この部分がタイトルの英語版「Under The Open Sky」になっている。

話のスジを少し紹介すると。初老の元殺人犯三上正夫は直近の刑期13年を終えて旭川刑務所から出てくる。彼は前科10犯、人生の大半を刑務所で過ごしてきた。そして今度こそは「堅気ぞ」と自分に言い聞かす。

津乃田(仲野太賀)のところに大量の「身分帳」が送られてくる、元殺人犯三上のものだ。テレビプロデューサーの吉澤(長澤まさみ)は前科者三上が心を入れ替え堅気として社会復帰し、生き別れた母を見つけ出し再会する様子をドキュメンタリードラマとして放映することを考えていた。

この依頼が製作会社を止めたばかりで困窮している津乃田に来た。彼は快諾し、ハンディビデオを持って三上を追うことになる。

三上は出所後、身元引受人の弁護士庄司勉(橋爪功)とその妻敦子(梶芽衣子)に世話になる。アパートを探してもらい、生活保護の申請など、当面の暮らしが保証される。

三上は社会に溶け込もうと就職先を探したり、車の免許を取り直したりと努力するがうまく行かない。スーパーでは万引きの疑いをかけられたり、高血圧で倒れたりと災難が降りかかる。

そんな三上に津乃田はコンタクトを取り、生き別れた母親を見つけ出すことを条件に取材の許可を取る。津乃田は三上の「身分帳」を読んで、彼が壮絶な人生を過ごしてきたことに戦慄を覚える。特に若いヤクザを日本刀でめった刺しにして殺害した過去に恐怖感も感じる。目の前にいる、優しそうな男がこんなどす黒い過去を引きずっていたとは・・・。

津乃田は吉澤と一緒に三上を焼肉屋に誘う。その帰り道、二人組のちんぴらに絡まれたサラリーマンを見かねた三上は二人を叩きのめし半殺しにしてしまう。その光景を見ていた津乃田は恐怖のあまりビデオカメラを持って逃げてしまう。後を追いかけた吉澤は大事な場面を撮り損ねたと津乃田をなじる。

三上は娑婆に出てきてヤルことなすこと失敗続きで嫌気がさし我慢していたがついに昔のヤクザ仲間に連絡を取ってしまう。仲間は困っているならうちに来いと優しく声をかけてくれる・・・涙が出そうだ。そして飛行機で九州に行ってしまう。果たして、三上はまた刑務所に逆戻りしてしまうのか、堅気の生活は無理なのか・・・。

TATSUTATSU

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