邦画

映画「散り椿」感想・評価:素晴らしい映像で武士道の美学を描いた秀作

サマリー


★★★☆☆(お薦め)

2018年9月公開の日本映画 時代劇
監督・撮影 木村大作(劒岳 点の記、散り椿
脚本 小泉堯史
原作 葉村麟「散り椿」
出演 ●岡田准一(海賊と呼ばれた男、関ケ原、散り椿
●西島秀俊(Dolls、休暇、ラストレシピ~麒麟の舌の記憶~、劇場版MOZU、クリーピー散り椿
●黒木原華(舟を編む、小さいおうち、母と暮せば)
●池松壮亮(ラストサムライ、紙の月)
●麻生久美子(カンゾー先生、モテキ)

岡田准一主演!映画「散り椿」予告

 

この映画を観ていると、つくづく映画とは「芸術」だと思う。原作を何度も読んで脚本に仕上げ、配役を決めてさらにロケ地も決めなければならない。

事前の準備に相当な時間をかけたことが伺われる。しかもオールロケと言う事で、天候に映画に合わせなければならない。雪の中のシーンを撮るのに相当な忍耐がいったと思う・・・雪が降るのを待たなくてはならないからだ。

散り椿の前での決斗シーン、降りしきる雪の中での刺客との闘い、雪、紅葉、竹藪の中での剣の修行模様・・・・ため息が出るほど美しい映像に心が動かされる。しかも今回の殺陣(たて)は何回も試行錯誤を繰り返して産み出されたものだ。リアルでスピード感にあふれ、華麗にさえ見える。

監督の木村大作は黒澤明監督や名だたる監督の撮影を担当してきた撮影のエキスパートだ。だからこんな美しい映像が撮れる。細かなカット割り、クローズアップ、スローモーション、CGなど一切使っていないのが逆にリアルに感じる。

遠くから撮影した本番一回限りの長廻しシーンには驚く、ハリウッド映画に慣れてしまった僕らにも新鮮に映る。そして鍛えに鍛え上げた岡田准一の殺陣にしびれる。

第42回モントリオール世界映画祭で審査員特別グランプリを獲得している。この映画はお薦めだ。殺陣だけでなく、夫婦愛、さらに扇野藩の勘定方頭取 平蔵(木村大作)を暗殺したのは誰なのか?のサスペンス要素も盛り込まれている。

話のスジを少し紹介すると。時代背景は享保15年(今から288年前だ)、元扇野藩の藩士 瓜生新兵衛(岡田准一)は8年前に藩の不正を訴えたが、これが原因で国を追われる。新兵衛は平山道場「四天王」の一人で、かつては鬼の新兵衛と恐れられていた。

そして妻 篠(麻生久美子)と静かに京都で暮らしていた。妻が大病に倒れ亡くなる。篠は死に際に「藩に戻って榊原采女(西島秀俊)を助けてほしい」と言い残す。新兵衛はやむなく藩に戻ることになる。

新兵衛には平蔵暗殺の嫌疑がかけられていた。平蔵は「四天王」しか使うことの出来ない蜻蛉斬りで殺されていた。新兵衛は妻の妹 由美(黒木原華)のいる坂下家にやっかいになる。由美の弟で藤吾(池松壮亮)は兄の源之進(駿河太郎)が平蔵の不正がらみで腹を切っていることからいい顔をしなかった。

藩の内部では実権を握る城代家老 石田玄藩(奥田瑛二)と新藩主 千賀谷政家(渡辺大)の御用人 榊原采女との権力争いが始まろうとしていた。新兵衛もこれに巻き込まれてしまうのか。そして平蔵を暗殺したのは「四天王」の内誰なのか、さらに新藩主を亡き者にしようと企むやからがいる・・・それは誰なのか?

映画の注目点としては藤吾だ。彼は最初 新兵衛を快く思っていなかったが新兵衛と係り合ううちに強い侍の心に心酔してゆく。そして新兵衛から剣の極意も受け継いでゆく。藤吾の成長物語でもある。

その後のストーリーとネタバレ

田中屋惣兵衛(石橋蓮司)は新兵衛に用心棒を依頼する。石田玄藩は田中屋が持っている「起請文」を狙っていた。実は平蔵と田中屋との不正の黒幕は石田玄藩だった。「起請文」は一種の契約書のようなもので石田玄藩と田中屋との不正の取り決めが書かれてあった。

ある日田中屋に賊が侵入し、駆け付けた新兵衛は起請文が奪われたことを知る。幸い奪われた起請文は偽物で、本物は無事であった。新兵衛はこの起請文を榊原采女に託す。

その後新兵衛は坂下家で静かに日々を過ごしていた。藤吾は新兵衛と暮らして行くうちに彼の生き方に魅せられ、また剣術も受け継ごうと決心する。妻の妹 由美もひそかに新兵衛を慕っていた。

春になって千賀谷正家が帰国し、巻狩り(鹿やイノシシなどの狩り)の最中に銃撃される。正家は軽傷であったが護衛を務めた篠原三右衛門(緒形直人)が銃弾を浴び亡くなる。死の間際、平蔵を斬ったのは私だと藤吾に告げる。

石田玄藩は榊原采女に千賀谷政家が狙われた失態の責任を取って切腹せよと圧力をかけて来る・・・起請文をよこせとゆうことか?

そんな時、采女の前に新兵衛が現われ、決斗を申し込む。新兵衛は妻の篠が終生、心の奥で采女を慕っていたと考えていた。散り椿の前での戦いは互角で決着する。采女は篠からの手紙を新兵衛に見せ、「本当に愛していたのはお前だ」と真実を告げる。

そこに上意討ちを企む石田玄藩が多くの手勢を伴って現れる、采女を排除するつもりだ。采女と新兵衛は協力し玄藩の手勢を次から次へと斬って行く。ところが采女は弓矢を受け倒れてしまう。新兵衛は泣きながら敵を倒し玄藩を切り殺す。

采女は闘う前に起請文を千賀谷政家のもとに届けるよう藤吾に渡していた。采女は亡くなったが新兵衛と藤吾によって悪が暴かれ一件落着する。藤吾は新藩主 千賀谷政家から榊原采女の家を継ぐように言い渡される。そして坂下家は次男が生まれたら家を再興することも付け加える。

新兵衛は千賀谷政家から藩に残るよう要請されるが固辞する。新兵衛は藩をあとにして旅に出ようとしていた。彼を慕っていた由美が後を追う。

レビュー

平蔵を暗殺したのは篠原三右衛門だった。平蔵は采女の養父だったのだが賄賂を受け取っていたことが知られ、切り殺そうとしたところ篠原三右衛門に返り討ちにされる。采女は父に斬られるつもりであった。

藩を将来背負って立つ采女を篠原三右衛門がかばった。そしてもう一人の四天王 坂下源之進も采女をかばって切腹する。その時には既に瓜生新兵衛は藩にはいなかった。

四天王の3人が采女をかばって亡くなったり、藩をあとにしたりしたが結局采女は死んでしまう。しかし、藤吾が後を継ぎ、藩を立て直して行こうとするところで物語は終わる・・・ハッピイエンドでよかったね。

木村大作監督は黒澤組の一員として多くの作品に携わってきた、「用心棒」「椿三十郎」などのテイストが伺われる。初めて経験する時代劇監督とは思えないほどリアルなのはそうした経験があったからだと思う。

日本の本当の時代劇が世界に認められたのはうれしい。昨今では奇抜なハリウッド的時代劇ばかりだからね。

TATSUTATSU

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